あれはたしか僕が小学校3年生の頃だった。
同じクラスに”K”という名前の女の子がいた。
彼女はあまり学校には登校せず、たまに授業に出ても先生の出す質問に答えられることなどなかった。しかもいつも薄汚れた制服を着ていて、後ろ姿からは貧しさの陰が見え隠れしていた。
馬鹿で汚くて無口。
彼女はクラスの誰からも人間扱いされていなかった。
今で言う「イジメ」の対象物でしかなかった。
2学期も半ばの頃、彼女があまりにも長い期間学校に姿を現さないことがあった。
このままではまずいと思ったのか、担任の先生は彼女の家まで行き”K”を学校に連れ戻そうとした。
そのあと、先生は僕らに彼女の住む家の様子を話してくれた。
彼女の家は僕らの想像していたとおりのあばら屋だった。
家の中には炊飯器以外の家具はなく、明かりすらない暗い部屋の中で母と妹の3人で暮らしていたそうだ。
先生は話の最後に「明日から”K”が学校に来るようになる」と僕らに伝えた。
その話の翌日から彼女は再び学校に登校してくるようになった。
しかし、久々に登校してきた彼女に対して先生が与えた仕打ちはこうだった。
「お前の顔を見ているとムシャクシャする!!」
先生は大人の大きな手で、幼く小さな顔を力任せに殴った。
僕らクラスメートの前で何度も殴りつけた。
罵声を浴びせながら何度も何度も殴りつけた。
その時
彼女は
泣きながら
血を流し
わめきながら
命乞いをする。
なのに
先生は
なんども
なんども
小さな顔を
殴り続ける。
僕らクラスメートは必死に命乞いをする彼女を見ても”可哀想だ”という気持ちはまったくわかなかった。
誰もが薄ら笑いを浮かべているだけだった。
その後、彼女は僕の記憶から消えた。