クライミングを独学で
他でもよく書いているのですが、僕はいろいろと遠回りをしながらクライミングを独学で覚えました。しかも共にクライミングはじめようとする仲間もいなかったので、最初に覚えたのがソロクライミングという少し特殊なスタートでした。
普通、クライミングをはじめようと思ったら、山岳会に入るとか、講習会や山岳ガイドに学んだり、すでにクライミングをしている友人や先輩から教わるというのが一般的だと思います。
そんなふうにクライミングを学ぶ方法はいくつもあるのですが、僕はあえて独学という道を選びました。
独学の道を選んだ理由はいくつかあるのですが、他人に干渉されたくないというのがその一番の理由でした。「他人に干渉されたくない」なんていう協調性のないヤツが山岳会などに入ってうまくやっていけるはずもないので、必然的に独学の道を選ぶことになったと言ってもいいかもしれません。
じつは僕は山を始めたばかりの頃、3,4ヶ月だけインターネット上の登山サークルに加わっていました。その登山サークル内には沢登りやクライミングをする人も何人かいたのですが、僕がそのサークルで参加した山行は大台ケ原ハイキングの一回きりでした。
あまり詳しくは書けないのですが、その登山サークルは不倫関係の巣窟状態でした。その不倫関係のゴタゴタの解決のために一肌脱いだ僕は結果的にサークルを追われる立場になり、最終的に強制退会という形でそのサークルを後にしました。
山を始めたばかりの頃にそんなゴタゴタに巻き込まれたということもあり、僕はより人との関わりを避けるようになっていきました。
一人でクライミングを覚えていこうと思い、まず最初に練習したのは「ロープの結び方」でした。
まず用意したのは2mほどの細引きと一冊の本 「ロープワークハンドブック 羽根田治・著(山と渓谷)」でした。本を見ながら細引きを使って何度も結び方の練習をしました。”本”という二次元の表現から三次元である結び方というものを覚えるのは結構困難で、クライミングの一番の基礎となるエイトノットを結べるようになるまで1時間近くもかかりました。
その本と細引きを僕はいつも持ち歩きました。
山にも持って行くし、職場へも持って行きました。そして時間さえ見つけてはロープの結び方を練習しました。
次に、インターネットを使って自宅近くの岩場を探しました。
そして、自宅から30分ほどのところに蔵岩という初心者向けの岩場があることを知りました。クライミングギアは何も持ってませんでしたが、本物の岩を触ってみたくなり、その蔵岩に出かけることにしました。
その日の僕は壁を目の当たりにした瞬間に岩の魅力に取り付かれてしまい、ザイルもクライミングシューズもないままフリーソロで壁を攀じ登ってしまいました。そして岩場のテッペンに着いた瞬間になんともいえない満足感を味わい、自分が探していた世界がそこにあることを感じました。
岩の虜になってしまった僕はすぐにクライミングギアを買い揃えました。同時に10冊近くクライミングの技術書を買い、ほとんど徹夜状態で毎晩読み漁りました。そして再び蔵岩へ向かいました。
まずは壁の頂上に流動分散で支点を作り、壁の上からザイルをたらしました。そのザイルを使っていきなり懸垂下降などできるはずもなく、下降路を使ってトボトボと壁の基部まで歩いて降りました。
そして、基部の緩斜面を少しだけ登ってザイルにエイト環をセットし3mほど懸垂下降してみました。初めての懸垂下降は思っていたよりも簡単で、スルスルと降りる感覚がたまらなく気持ちよかったことを今も覚えています。
その初めての懸垂下降の練習のときに、すでにシャントをバックアップに使っていたのは今考えるとちょっと驚きです。
次にアセンダーをハーネスにセットしトップロープでV級程度の壁を登りました。そして、登っては懸垂下降、登っては懸垂下降と繰り返し、気がつけば4時間も休憩なしで登り続けていました。
そして、3回目のクライミングでソロクライミングでのリードを練習しました。初めてのリードは恐怖心ばかりが先にたち満足に登れなかったのですが、エキスパートのみが使うことを許された単独登攀の確保器であるソロエイドを、クライミング3回目の初心者の僕が使っているというのがなんだかおかしく、同時に少し誇らしげでもありました。
そうやって、回数を重ねながら僕はクライミングを覚えて行きました。
その後一年ほどたってから、ある女性に僕が覚えたクライミングの技術を教えました。そして、その女性が僕の初めてのザイルパートナーとなりました。ザイルを結び合い、お互いの命を預かりそして命を預けることの出来る最高のパートナーだと思っています。
そして今、その女性は僕の恋人になっています。
2008年12月に別れました(;´д`)
正直言ってクライミングを独学で覚えるというのはとても効率の悪い方法だと思います。
山岳会で3ヶ月でマスターできる技術も、独学で覚えようと思えば1年近くかかるでしょう。僕自身、これを書いている時点でようやくクライミング暦が3年になりましたが、今の僕の技術は初心者級でしかないと思っています。教育システムのしっかりとした山岳会でクライミングを学べば、今の僕の技術力と同レベルになるまでおそらく半年もかからないでしょう。
しかし、そういった独学の不利を分かっているからこそ、僕は常にアンテナを張り巡らし、クライミング技術の最新情報を得ようと努力しています。英語もフランス語もドイツ語も分からないけど、辞書を片手にクライミング技術の洋書を読み、インターネットを使って海外のソロクライミングの技術などを吸収しています。
だけど、そこまでやっても実際に山に入れば僕の実力は山岳会の初心者クラス並でしかないのも事実です。ソロクライミングに関しては僕に一日の長があるにしても、アルパインの総合力ではまったく敵わないでしょう。
だから、これからクライミングを始めようと思っている人がもしこの文章を読んでくれているとしたら、僕は次のことを伝えたいと思います。
クライミングを真剣にやっている山岳会で、生きた技術を生身の人間から教わることほど上達への近道はないでしょう。
もしあなたがより高みを目指そうと思っているのなら、優れた山岳会に入って技術を学び、そしてその技術を次に入ってくる人に伝えてあげてください。
だけど、もし僕がもう一度クライミングを一から始めるとしたら、やはり独学でクライミングを始めるでしょう。
それが僕らしいスタイルだと思うし、それが僕にとってのアルピニズムだからです。
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