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行程
3/23
近鉄二上山駅→屯鶴峰→二上山→竹之内峠→平石峠→岩橋峠→持尾辻→一本松→大和葛城山
3/24
大和葛城山→水越峠→パノラマ台→金剛山→社務所→伏見峠→久留野峠→ロープウェイ前バス停
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夜明け前のツェルト
3月後半だが氷点下
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3/24(日)
明け方、外に置いていた水に氷が張っていた。ツェルトのまわりにも霜柱が立っている。標高900mほどしかないが山はまだ冬だ。
昨夜は結局何も食べることが出来なかった。何かを食べなければとカレーライスを作ったが、疲労のため結局スプーンに3杯しか喉を通らなかった。
そのカレーの残飯をザックの一番上につめ、まずは葛城山の山頂に向かった。
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葛城山頂は横殴りの雪と風
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山頂は激しい雪。そして、昨日に引き続き強い風。
カメラに雪がつかないように気を使いながら写真を撮り、そして水越峠へ。
急な階段を水越峠へ下っていると、下のほうから何人もの人が駆け足で登ってくる。すごいスタミナだなと驚く。
たとえ背中の60Lザックがなくても、僕にはあんなことは出来ないだろう。
僕が通っていた高校では、毎年冬になると20kmのクロスカントリーマラソンが行われた。当時の僕はスタミナは誰にも負けない自信があった。最終的に優勝することは出来なかったが、2年連続2位という成績を残すことが出来た。
しかし19歳の冬、バイクで事故。手術は失敗。自力でまともに歩けるまで1年のリハビリが必要だった。その期間に体力・筋力共に奪われた。それ以降、身体を使う遊びをしなくなった。
そんなことを考えながら標高差400mを一気にくだり、標高差600mの金剛山への登りへ。
昨日の疲れがまったく抜けていない。
ザックの重さが肩と脚に容赦なく襲い掛かる。足首から下は痛み以外の感覚がない。ステッキに体重のほとんどを預けないと、脚を前に踏み出すことも出来ない。
その時、ザックの一番上にしまってある残飯を思い出した。
「残飯を森の中に捨てろよ、軽くなるぞ」と弱い自分がささやいた。
「土の中に埋めれば問題ないぜ」と弱い自分がささやいた。
「人目につかないところで捨ててしまえよ」と弱い自分がささやいた。
疲れがピークにきているのか、利己的な考え方しか出来なくなっている。
ザックを降ろし、残飯の入ったビニール袋を掴んだ。
残飯の重さが指先にズシッと伝わる。
まわりには誰もいない。
しかし、捨てようと思う気持ちをぐっとこらえた。
ザックの底に残飯入りの袋を乱暴に押し込んだ。
簡単には取り出せないところまで押し込んだ。
利己的になっていく自分もザックの中に押し込んだ。
そして「もう、山を下りよう」と決めた。
地図を広げ、下山ルートを考えた。
もう一度、水越峠まで下って1日4便のバスを待つより、金剛山まで登ってロープウェイで下るほうが早く帰れる。それにダイトレルート上の最高峰金剛山を踏めば自分にも言い訳が出来る。そう決めると再びザックを背負った。
一の鳥居につく頃には目眩が激しくなってきていた。しかし、直接ロープウェイ乗り場には向かわずに山頂を目指す。
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金剛山から見た葛城山
昨日の寝床だ
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山頂に着いても感動はなかった。当たり前といえば当たり前だ。すでに何度も登っている山だ。数枚の写真を撮り社務所方向へ下山。
ステッキに頼りながら坂道を下りていると目の前で人が止まった。顔を上げるとそこには昨日会ったnari_ski さんが立っていた。
一緒に社務所前の広場まで下り、30分ほど話をした。
しかし、ロープウェイで下山しようと思っているということは言えなかった。
こんなにボロボロなのに見栄を張ろうとする自分が嫌になる。
nari_ski さんと一緒に伏見峠の方へ歩く。途中で歩き方などのアドバイスを受けた。
自分では意識して歩幅を小さく歩いていたつもりだったが、山ではまだまだ大股歩きと言える歩き方だった。
彼の歩き方をマネて歩く。
確かに、少し楽だ。
そして、ロープウェイ乗り場を過ぎ香楠荘前でnari_ski さんと別れた。
金剛山キャンプ場でいったん休憩し行動食を口にする。
すると「行けるところまで行ってみよう」と少し勇気が湧いてくる。
通り過ぎたロープウェイ乗り場には戻らず、伏見峠へ向かう。
そして伏見峠でも山を下らず、そのままの勢いで久留野峠まで歩きつづけた。
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敗北の中葛城山への登り
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久留野峠に到着。ここで山を下りなければ、この先エスケープルートは当分ない。そして、目の前には中葛城山への階段。
自分の身体と相談する。
「このまま進めるか?」
5分ほど立ち止まったまま考える。
答えはNOだった。
「下りよう」
敗北を認め僕のチャレンジは終わった。
久留野峠から急坂の登山道を下り、バス停にたどり着くと、バスが出発寸前だった。
脚を引きずりながらバスに乗り込み空いている席に座った。
少し長めのブザー音が鳴り終わり、扉がキシミ音を立てながら閉まった。
そしてバスはゆっくりと走り出した。
その瞬間、悔し涙で景色がにじんだ。
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