alone in the mountain
逃亡者・大普賢岳
     2002/08/12-14
     メンバー 単独
     天候 曇→晴→雨→晴
     山域 大峰山地(奈良)


行程
和佐又キャンプ場→笙の窟→石の鼻→大普賢岳→七曜岳→無双洞→クサリ場→和佐又キャンプ場



ベースキャンプ
8月12日 嵐の前の静けさ

 暗闇に目が慣れてくると、先ほどまでぼやけていた天の川がはっきりと見えてくる。あれが自分たちの住む銀河系の一部だといわれてもあまりピンとこない。

 時折、天の川を切り裂くように流星が流れる。
あまりの美しさに小さく声を上げてしまう。

 少しずつ勢力を増してきた曇り空が全天を覆い隠すまで、僕は和佐又山の麓に張ったテントには戻らなかった。



石の鼻へ
8月13日 逃亡者
 登山道!全速力!走る、走る、走る!
 振り返る!まだいる!走る、走る、走る!
 逃げろ!助けて!走る、走る、走る!

チキショー!!!
なんで俺があんなヤツに追い掛け回されないといけないんだよぅ。

ゼェゼェハァハァ〜。
もう大丈夫だろうと立ち止まり、呼吸を落ち着かせていると、またあの羽音が迫ってくる。

ウヒョ〜〜〜!
再び全速力!

 これまでにハチにさされたことは一度や二度じゃない。自分がハチの毒にアレルギーをもっていることは分かっている。アシナガバチにですら刺されたあとは半日近く身体の自由がきかなくなる。

 しかも、今回の敵はアシナガバチではなくスズメバチだ。

逃亡者
 とにかく走れ!

 火事場の馬鹿力とはよく言ったもので、普段は激遅足な自分が急勾配な登山道を全速力で突っ走っていく。

 とりあえず、左の写真を見てよ!
全速力で走ったから、身体から湯気が出てるんだよ!この真夏に!見にくかったら写真をクリックしてよ!デカイ画像に変わるからさぁ。そしたら、どれだけすごい勢いで身体から湯気が上がってるかわかるからさぁ!

おっと、しゃべってる暇はねぇ。とりあえず走らなきゃ!


振り返れば小普賢岳
 笙の窟〜大普賢岳の間は

1 ハチ!ロックオン!
2 全力疾走
3 逃げ切る
4 バテて動けなくなり休憩
5 ハチが追いつくor新手のハチ登場

 1から繰り返し。


 全力疾走してるのに、それ以上の時間を呼吸を整えるのに使うため、なんだか普通に登山してる以上に時間がかかる。しかも、スズメバチに襲われずに安心して休憩できたのは「石の鼻」の岩の上だけ。なのに、絶景で知られる「石の鼻」はガスに包まれ、な〜んにも見えない。泣きっ面にハチならぬ泣きっ面にハチ&ガスW攻撃。
 
 そりゃ、こんな登山じゃ登頂後に左の写真のような顔にもなりますよ(w

 この大普賢岳はこれまで5回ほど登山計画を作ったのにそれらの計画すべてが流れてしまった因縁の山でした。まぁ、「因縁の山」といえばカッチョいいけど、計画が流れたホントの理由は
「ハシゴへの恐怖」
「寝坊」X3
「その他」の計5回なんですけどね(w

 まぁ、それは置いといて5回も計画を立てちゃうほど憧れてた山なんですよ!

なのに。。。なのに。。。なんで走りっぱなしなのさ。。。オレ。。。
なんで、こんなにも逃げ続けないといけないのさ。。。
大普賢岳登頂
 
稲村・大日と遠くにダイトレ


新たな敵

「スミマセン、写真とってもらえますか」

とおじさんにお願いされ、いいですよと明るく返事をして稲村ヶ岳をバックに写真を撮ってあげた。
「スミマセン、写真とってもらえますか」
先ほどのおじさんにまたお願いされ弥山をバックに写真を撮ってあげた。
「スミマセン、写真とってもらえますか」
水太覗でおじさんに再会し写真をとってあげた。
「スミマセン、写真とってもらえますか」
国見岳でおじさんに再会し写真をとってあげた。
「スミマセン、写真とってもらえますか」
「スミマセン、写真とってもらえますか」
「スミマセン、写真とってもらえますか」
「スミマセン、写真とってもらえますか」
「スミマセン、写真とってもらえますか」
行く先々で、このおじさんが待ち受けていた。


 そして、七曜岳山頂で再び再会、
今度は
「水がなくなっちゃったよ・・・」
と、おじさん。


 過去に自分のミスで水のない登山をしてしまい、死ぬ思いをしたことがあるので、万一のことも考えて登山のときはいつも多めに水を持ち歩くようにしている。

山でこそ、困ったときはお互い様だ。
おじさんの水筒に1リットルほど水を分けてあげた。

「ありがとう、写真とってもらえますか」

水太覗

大普賢・小普賢・日本岳
 
おじさんに撮ってもらった
(;´д`)(;´д`)(;´д`)(;´д`)(;´д`)(;´д`)(;´д`)
オレはアンタの三脚かい!

 このままではハチに追われるのと、おじさんの写真を撮るだけの山行になる可能性が高くなってきたので、七曜岳からは僕が先行させてもらうことにした。
聞けば60近い年齢だったので、一度先行させてもらえばおじさんに追いつかれることはないだろう。

 「嗚呼、これからやっとオレの大普賢岳登山が始まるのだな」
そう思うと胸が熱くなる。大普賢岳はもうはるか後方だけどさ。

無双洞
 おじさんを引き離すために、いつもの自分のペースよりやや速めで七曜岳からの急な降りを行く。

 このペースならおじさんに追いつかれることはあるまい、と後ろを振り返るとおじさんがニッコリ。
「スミマセン、写真とってもらえますか」

さらにペースをあげ転がり落ちるように無双洞へ向かう。そして振り返ると。
「スミマセン、写真とってもらえますか」

なんなんだ!このおじさんのスピードは!

おじさんから逃げるようにペースをあげる。しかし山にコダマするその声は
「スミマセン、写真とってもらえますか」
「スミマセン、写真とってもらえますか」
「スミマセン、写真とってもらえますか」


プチ岩場
 おじさんと一緒に無双洞で休憩。
「スミマセン、写真とってもらえますか」
冷たい水で見も心も潤してた。
おじさんはまだ休憩するということで、おじさんをおいて先に出発させていただいた。

 大普賢周遊路名物の岩場に差し掛かる。
振り返ってもおじさんはいない。
この岩場はしっかりとクサリがついているが、岩場の練習がてらクサリや鉄杭を使わずに登ってみる。
三点確保の基本に忠実にゆっくりと登っていく。
適当なホールドを探しながらのプチロッククライミングを楽しむ。
「岩登りってなんだか面白いなぁ」と緊張感と高揚感の混じった不思議な感覚を味わっていると、眼下に人の気配が!

 下を覗き込むと、おじさんがクサリにしがみつき、ものすごい勢いでガシュガシュと登ってくる。
そのスピードはリプリーたちがシャフトの中を上へ上へと逃げるエイリアン4のワンシーンを髣髴とさせる。

逃げるんだ!
逃げなきゃ、また捕まってしまう!
岩に置いていた手をはなし鎖に持ち替えペースをあげる。
逃げるんだ!
逃げなきゃならない理由はわからないけど、オレの本能が逃げろといっている。
だから、逃げるんだ!あのエイリアンから逃げるんだ!
逃げ切らなければあのセリフがまっている!


「スミマセン、写真とってもらえますか




キャンプ場から和佐又山
8月14日 ありがとう

 目覚めるとおじさんのテントはもうなかった。

 昨夜は水と写真のお礼におじさんがビールをご馳走してくれた。キャンプ場の炊事棟で一緒に飯を作り、食べ、飲んだ。

 旅に出てよかったと思う瞬間は風光明媚な景色に出会えたときではなく、気の合う誰かに出会った瞬間かもしれない。
 山に限らず旅先での出会いは、人をほんの少し大人にしてくれる。


 ありがとう おじさん。




振り返れば夏
帰り道

 大阪へ帰る途中、バックミラーが青く染まった。

 バイクを止めヘルメットを脱ぐと心地よい山の風が頬をなでる。バイクにまたがったまま、ゆっくりゆっくりと大きく大きく息を吸う。そしてゆっくりゆっくりと時間をかけて息を吐き出す。

 肩の力が抜け、身体の毒素が息とともに出て行くような気がする。

肩越しに振り返ると、青い空に大きな入道雲。

 夏を見つけた。


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