alone in the mountain
迷(南葛城山)
     2003/06/06
     メンバー ぐり〜ん♪
     天候 曇り
     登頂 南葛城山
     山域 和泉山脈(大阪・和歌山)


行程
滝畑→千石谷林道→大滝→801ピーク→南葛城山山頂→???→???→???→桃ノ木ダオ→大畑峠→蔵王峠→光滝寺→滝畑
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野ウサギ
 直登

 突然、目の前にフワフワしたものが現れた。
「野ウサギだ!」
 人間の姿に驚いたのだろう、ピョンピョンピョンと林道沿いに逃げていく。
  しかし、逃げたかと思うと立ち止まり、じっとこちらをうかがっている。そっと近づくとまた逃げる。そして、また立ち止まりこちらをうかがっている。
  何度もそんなことを繰り返しながら、手のひらに乗りそうな小さな小さな野ウサギと一緒に林道を歩いた。
 こちらに悪意がないことを分かってくれたのか、小さな野ウサギはそのうち逃げるのをやめ、触れることが出来そうな距離まで近づくことが出来た。
 その場にザックを下ろし小休止をすることにしたが、野ウサギは一定の距離を保ち、逃げもせずじっとこっちを見ていた。

急登
 いつまでも野ウサギを見ていたかったが、南葛城山直登ルートを登るために再びザックを背負い、僕は登山道に入っていった。

 この南葛城山直登ルートは、ずっと行ってみたいと思っていたコースだった。しかし、なぜか縁がなくなかなか訪れることが出来なかった。気が付けば行ってみたいと思い始めてから一年の月日が流れていた。

 噂には聞いていたが、この直登ルートは思わず笑いが込み上げてきそうなほどの急登だった。気を抜くとズルズルと斜面を滑り落ちてしまう。
 ストックを地面に突き、杉の木にしがみつきながら高度を上げて行く。山頂までは一時間ちょっとしかかからない短時間の登りだが十二分に急登を楽しめた。

不法伐採の爪跡

 途中、不法伐採によりハゲ山になった場所を通過した。かつてそこにあった自然林はチェーンソーでぶつ切りにされ斜面に放置されていた。

 こちらは山に「登らせてもらっている」立場だし、何も言えないのは分かっている。
  が、残されたわずかな自然を少しでも大切にして欲しいと思うのは当然のことだろう。
  自然を次の世代へ残して欲しいと思う事は僕の我侭な戯言なのだろうか。

笹の原
直登ルートで登頂
 展望のない山頂だったが、苦労して登っただけあって心地よい達成感があった。
  30分ほど誰もいない山頂でくつろぎ下山を開始した。



 迷走

 「トラブルは下りでやってくる。」
登山でよく言われる言葉のひとつだ。
今日の僕はその言葉どおりの結果となってしまった。


 それまで頼りにしていた僅かながらの踏み跡がまったくなくなっていた。

 「戻り道も分かる、地図上での現在位置も分かっている。迷ってなんかいない。」
 何度も自分にそう語りかけるが、明らかに道を見失っていた。現在位置もわかっていなかった。唯一の救いは深みに嵌る前にその事に気が付いたことだった。深い森に包まれ2点法で現在位置を特定することも困難な状況だった。そんな状況で道無き森に突っ込んでいくほど度胸もないし、技術もなかった。

 道とは言えない道を登り返す。
 10秒間、目を閉じたまま歩けば二度とその道に戻れなくなるような森の中を、緊張感と喪失感のアンバランスなバランスの中、登り返した。

胸までの笹に囲まれる
闇が迫り来る
 常に片手に地図を持ち、現在位置を特定しようと努力した。
いくつにも枝分かれした道を下っては絶望し、そしてまた登り返した。
どの道も森の中で消えていた。
獣道に迷い込んでしまったのだろうかと不安が増していった。
時間の経過とともに森は光に代わって闇が支配の準備をはじめていた。

 以前にも一度、登山中にルートを失ったことがあった。その時は友と二人だった。
 考える脳が二つあれば窮地を脱出する方法も2倍思いつくことが出来たし、不安も二人で分けあうことが出来た。お互いに勇気を与え合い最後には「なんとかなるさ」と笑いながら道を探すことが出来た。

 しかし、今回の僕は山の中でひとりぼっちだった。
 「ツェルトもある。非常食も、明かりもある。イザという時でも数日間は十分に行動できる。落ち着け!落ち着くんだ!」
 焦っていた。不安だった。でも誰にも頼ることは出来なかった。

 道が森の中に溶けて消えていくたびに、失禁しそうなほどの脱力感とヒザが震えるほどの恐怖が身体中に走った。

ショットガンシェル
 落ち着くために歌を歌った。誰も聞くもののいない山の中で大声で歌った。

 何度も下り。
 何度も登り返した。
 ひたすら答えを探しつづけた。

 何度目の挑戦だっただろう。
目の前に踏み跡のしっかりした登山道が横切った。

 森が開け、視界が広がり、現在位置の特定も可能になった。
「もう、大丈夫だ。」
 しかしそう思っても、片手に握り締めた地図をポケットにしまって歩くことは出来なかった。人の匂いがするまで不安は続いた。何度も何度も地図とコンパスで現在位置を確認しながら、迷うはずのない踏み跡のしっかりした登山道を下って行った。


帰還

 幾重にも重なる真っ赤な鳥居を見たとき、ようやく「終わった。」と実感できた。やっと人の匂いがした。


 悔しかった。
何度も地図を見ながら歩いていたのに、無様な道迷いをしたことが悔しかった。登山は勝負事ではないが「負けた」という思いがした。

 今回はツイていた。
でも、そのツキが次もあるとは限らない。

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