alone in the mountain
北鎌(槍ヶ岳)

     2005/09/7〜10
     メンバー 
ぐり〜ん・Mさん
     天候 台風とか晴れとか雨とか
     山域 北アルプス(長野・岐阜)



行程

上高地→横尾

8日
横尾→水俣乗越→北鎌沢出合→北鎌コル

9日
北鎌コル→独標→北鎌平→槍ヶ岳

10日
槍ヶ岳→槍平→白出→新穂高
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 オーーーーエェ。
 オーーーーエェ。
出だしから体調ボロボロ。

 上高地に付いた時点で止まらない下痢、収まらない吐き気、凍りそうな寒気に襲われて、歩くこともできず上高地インフォメーションセンターで4時間もうずくまっていました。

 せっかくの北鎌尾根、せっかくの夏休みなのに・・・。
最悪の体調でしたが彼女に励まされながら、台風14号の暴風の中をフラフラと横尾まで這いずっていきました。

 しかし、横尾のテント場で一晩寝ると体調も天候も回復し、元気印で横尾から槍沢を登って行くことができました。途中、ババ平のトイレが風でなぎ倒され汚物全開だったのがアレでしたが、香ばしい匂いにさらに元気付けられながら水俣乗越まで一気に登りつめました(臭)

 水俣乗越から先は登山道のないルートに入るのですが、とりあえず天上沢沿いを下っていけばいいので迷うことはないです。ザレザレ&落石がスパイスを与えてくれる楽しい下降です。

北鎌沢右俣
北鎌のコルでテン泊

 事前の下調べでは北鎌沢の遡行は「すべての分岐を右」だとか「すべて右の情報はウソだ」とかいろいろ言われていて一体何が正しいのかチンプンカンプンだったのですが、実際に現地に行ってみると答えは簡単、常に本流をたどれば北鎌のコルに着きます。「すべての分岐を右」に行こうと思ったら地形図と全然違う方向に進み始めるからすぐに気が付くと思います。

 小さな分岐も含めると10ちかくの分岐がありましたが、どれも本流を進めばOKです。太さが同じような分岐でどちらが本流かわからなくてもロシアンルーレットだと思ってテキトーに進めば何とかなります。自分の引きの強さを信じて頑張りましょう(無責任)

 引きの強い僕はノーミスでコルまであがれました( ̄ー ̄)ニヤリッ

 今回の北鎌でのテーマのひとつに「北鎌の稜線上で寝る」というのがあったので、北鎌のコルにテントを張りました。

 だけど、テントを張り終わると同時に再び吐き気が始まり、オエオエと空ゲロ炸裂であまりの苦痛のためこの日の夜のことはあまり覚えていません。深夜にテントから20メートルほど離れたところでクマが鼻を鳴らす声が聞こえてきたのですが、その時も吐き気全開だったのでクマのことなんてまったく気にもなりませんでした(;´д`)


北鎌下部を望む
天狗の腰掛へ


 朝、目を覚ましてもやはり吐き気が酷く、おまけに水下痢まで出はじめ、体調最悪の状態に陥ってしまいました。

 だけどここは北鎌。
一度稜線にあがってしまうとエスケープルートはなく、とにかく登りきるしか脱出の道はありません。ゾンビのような足取りでモソモソデロデロと天狗の腰掛を目指して登り始めました。半泣きというか全泣きです。10m登ってはオエオエと嗚咽を漏らし、50m登ってはパンツを下げて水下痢を北鎌にぶちまけました(汚)

 彼女の愛に支えられながら、天狗の腰掛を超え独標のコルに辿り着く頃にようやく吐き気から開放され本来の力が戻ってきました。

 よかったね、オレ。


下には天上沢が
独標


独標のトラバース
独標トラバース終了間近


 独標のトラバースが北鎌の核心なんていわれることもあるようですが、ここは楽勝でした。なんせ普通に道が付いてます。後半はスタンスが小さくなるのですがホールドもたくさんあるので問題なしです。北鎌を志そうとする人ならハナクソをほじりながらでも楽勝で通過できる程度です。


独標のチムニー
チムニーを攀じる

 トラバース道が終わるとチムニーが出てくるのでそこを登り、稜線を目指します。チムニーを登ったあとにもトラバース道が続いてるのですがそっちには行かず稜線を目指すのが正しいルートのようです。

 まぁ、バリエーションルートなんだから正しいルートとか間違いのルートとかって分け方はナンセンスですよね。間違いといわれる超困難なルートから登頂すれば新規ルート開拓として名を残せるかもしれないし、簡単に進めるルートだけが正解と言うのなら北鎌尾根自体が大間違いなワケだし・・・。

 でも、間違えて困難なルートへ行くのと、意識的に困難なルートを選ぶのとではまったく意味が違いますよね、って話がそれてしまいましたね(;´д`)

大槍はガスの中
登ったり降ったり

 独標〜P11〜P12あたりまでは快適に進めました。
岩もしっかりしてるし、とくに難しいところもなく、「へ?コレが北鎌?」と拍子抜けするくらいです。

 P12〜P13〜P14の間が北鎌の核心でした。
岩はもろくホールドもスタンスもボロボロくずれ、ルート上はザレザレで常にスリップの恐怖が付きまといました。1回のミスで命を落とすようなところの連続で最高に楽しいエリアです(狂)

 北鎌は日本三大岩稜に数えられていますが、実際に歩いてみると岩稜というよりも、ザレ場ばかりで砂稜という感じでした。岩は全体的にボロボロで寿命を迎えようとしている尾根という感じがしました。これ以上崩壊が進んでしまうと、近い将来、夏季に関しては登攀対象から外れてしまうのではないかとも思います。

残置スリングがありました
ザレピーク

 P11〜P14までの基本のルートどりは、大きな岩峰は直登し、小さなピナクルは巻いていくという感じです。

  P13近くにある白いザレピークが怖いという情報もあったのですが、ここは登山靴のエッジを聞かせてハの字登高で登れば普通にスタスタと歩いて登ることができました。

 P14は「こんなの登るんかい!」というような大きな岩峰で圧倒されるのですが、ここで巻き道に入るとあとあと大変なようなので、ここもやはり直登がいいようです。直登ルートは2級プラスから3級マイナスくらいなので問題なく
登れると思います。

 P15は千丈沢側に巻き道があるのでサックっと巻かせてもらいました。


独標を振り返る
ガス

 P15を巻き終えるとビバーク適地が出てきたので
「おおお、これがあの北鎌平なのだな」
なんていいながら二人で写真を撮ったりしたのですが、「ここが北鎌平」のあの岩はなく、どうやら間違いでした。

 そのニセ北鎌平の目の前にある岩峰を超えたところが北鎌平でした。

大槍の登り
最後のチムニー

 大槍の登りは岩もしっかりしていて、気持ちよく高度を稼いでいけます。
だけどここは、例のアホガイドが付けたペンキの目印がいたるところに付いていて、ここまで自力でルートファインディングしてきたのにクライマックスを汚されたようで少し嫌な感じがしてしまいます。

 せっかくバリエーションルートに来たのに他人がつけた目印に誘導されては楽しさが半減してしまいます。

  赤ペンキをつけた人に不幸が訪れるように祈るばかりです(怖)


 大槍を登っていくとまず下のチムニーが出てきます。
これは、右に行けばチムニーを巻いていくことができます。
僕らは「クラシックルートの基本は弱点攻撃」なんてもっともらしいことを言ってあっさり巻き道から登りました(;´д`)

 そこから一分ほど登ると次に上のチムニーが出てきます。
これは巻くことはできないのでビシッっと直登します。チムニーの途中にいかにも触っただけで落ちてきそうな50センチほどの岩があるのですが、この岩は実はしっかりと岩盤とくっついていてホールドとして使用できます(だけど自己責任で)このチムニーは右のフェースを登ると楽に超えることができます。まぁ僕は必死になってやっとの思いで超えましたが(涙)

 チムニーを超えると左上に白い杭が見えます。
この杭を目指して登り、そこから弱点を突いていけばあの有名な祠の後ろにヒョッコリと飛び出ます。


  頂上に付いた瞬間、通常は「おおーーー!北鎌から人が上がってきた!」と大勢の一般登山者から拍手喝さいがあるらしいのですが、当然僕らもそれをおおいに期待していたのですが、というかその拍手のために北鎌から登りたかったワケですが、っていうか目立ちたいがためだけに命を削って北鎌から登って来たワケなんですが、残念ながら山頂で迎えてくれたのはお兄さんが一人だけで、しかもそのお兄さんの最初の一言が「ギャラリーが少なくて残念でしたね」って、すっかりみすかされちゃってるし
(;´д`)


 そんなこんなで、北鎌制覇を祝し槍ヶ岳山荘に寄ってパンとおでんとコーヒーで彼女とささやかなお祝いをしたのですが、パンとおでんとコーヒーしか食ってないのに4000円も取られちゃって涙。

登頂
4000円


 最後に、今回の北鎌の装備とかなんやらかんやらについて。


 ☆軽量化

 僕らは今回北鎌を登るにあたって徹底的に軽量化をおこないました。
ちなみにテント泊装備と5日分の食料、登攀具で10kgを切るくらいまで軽量化しました。(水別)

 例えば
・ コッフェルは二人で一個だけ(1.5L)
・ 食料は棒ラーメン&フリーズドライ系
・ 寝るときはザックをマット代わりに使用
・ 水筒類はすべてプラティパス
・ 行動食はエネルギータブレットと練乳のみ(ぐり〜ん)
こんな感じで軽量化をはかりました。

 装備の軽量化をするにあたって役に立ったのは、キッチンスケール(秤)でした。持って行こうと思う装備の重量をひとつずつキッチンスケールで計っていくと、意外なものに意外な重さがあることが分かり、「うーむ、これは意外と重いし置いていこう・・・。」と積極的&徹底的に軽量化をすすめることができました。


 ☆登攀具について

 僕らは一度もザイルを使わずに槍まで登れたのですが、もう一度北鎌に行くとしてもやはりザイルは持って行くと思います。今回は一度もルートミスをしなかったのでザイルを使うことはなかったのですが、次回もミスなく登りきれるとは限らないし、北鎌は尾根自体の風化が非常に激しいのでルートの崩壊で次に行ったときも同じルートを登れるとは限らないからです。そういったことを考えると今回ザイルを使わなかったからといって次回はザイルを持って行かなくてもいいとは思わないでしょう。


 ちなみに今回持って行った二人分のガチャ類ですが
・ ザイル6mmX30m
・ ルベルソX2個
・ カラビナ7枚(環付2枚)
・ スリング5本(60cmX3 120cmX2)
・ 細引き6mmX5m

 6mmのザイルをシングルで使っていてはどうせトップの墜落は止められないので、次回北鎌に行くときはカラビナ類は大幅に減らすと思います。


 ☆水について

 今回僕らは北鎌の稜線で寝るということがひとつのテーマだったので、水はかなり多めに背負いました。
 ちなみに僕が4.5L、彼女が3L、二人で7.5Lの水を稜線に上げました。その水は槍に到着時点で3L以上残っていました。
 結果的に無駄に水を背負っていたことになりますが、もう一日稜線でビバークすることになっても水には困らないという安心感はとても大きなものでした。

 しかし、稜線で一晩過ごすことを考えていなければ水は一人当たり2.5〜3Lあれば十分だと思います。これだけあれば万一のビバークにも十分対応できると思います。

 水は北鎌沢で汲んだのですが、僕らは台風直後に北鎌入りしたので右俣のかなり上部まで水が出ていました。晴天が続くと右俣の水は枯れることもあるようなので、右俣左俣の出合で汲むのがよいようです。

 ちなみに、右俣、左俣の両方の水を飲んだのですが、味は左俣の水のほうが断然おいしかったです。右俣の水が不味いのは、上流に別名ションベン平と呼ばれる北鎌のコルを持つことが関係するのかもしれませんね(;´д`)


 ☆技術や体力について

 北鎌は技術より体力だとよく言われますが、僕らが今回とったような北鎌の稜線で一泊する計画で行けば体力的にもあまり厳しくはないと思います。

 とは言っても、15kgの荷物を背負って10時間以上歩き続ける体力や、15kgの荷物を背負って3級の壁をフリーソロで登る技術は最低限必要です。

 それ以上に必要だと感じたのは、ザレ場を歩く技術です。
独標を超え北鎌平までの核心部分は半分以上がザレ場の登下降になります。ザレ場を確実に歩く技術、ザレ場でラクを落とさない技術が絶対に必要だと思います。

 北鎌ルートは、寿命を迎えつつある風化した尾根を騙し騙し登るという感じでした。ダイナミックな岩稜を求めるのならば前穂北尾根の方が数段楽しいと思います。



 しかし「北鎌」の2文字は、次のステップに進もうとする登山者には特別な響きのある言葉だと思います。山を志すものなら誰もが一度は行ってみたいと思うルートだと思います。僕もそうした北鎌に憧れる一人でした。そして北鎌を登り終えた今、なんともいえない充実感があります。山を始めた頃は憧れることすら畏れ多かったあの北鎌に登ったんだと思うと、胸の奥から温かい何かが湧き出てきて心が満たされます。

 本当に登ってよかった。


 そんな充実感をこれから北鎌にチャレンジするすべての人が味わえますように。そしてすべての人が無事に山から降りてこられますように。

 あと、僕の人生、楽して大儲けできますように。


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