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眩暈がして雪の上に崩れ落ちそうになった。
あわててストックでバランスをとる。
ストックに寄りかかると吐き気が襲ってくる。
そして身体が震える。
膝上から腰ほどのラッセルが続き身体は温まっているはずなのに、寒気がする。
少し前から身体に違和感を感じていたが、僕は構わず上を目指していた。しかし、その違和感は僕の中で急激に勢力を広げ、立っていることまで困難になってきた。
雪面に身体を投げ出し、そのまま寝てしまいたかった。
その誘惑に打ち勝つのは容易ではなかった。
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全身が凍っていた。
3シーズン目になるマウンテンハードウェアのジャケットの防水性は完全に失われていた。そろそろ買い替えと思っていたがついつい先延ばしにしてしまっていた。
その防水性が著しく落ちたジャケットを湿雪は見逃さなかった。
白い悪魔はジャケットの上に着地した瞬間に冷水に姿を変え服の中に進入し僕の身体を冷やしていった。
気が付いた時には全身に冷水がまわっていた。
服を着たまま真冬の湖に飛び込んだような感じだっだ。
倒れこみたくなる衝動と戦いながら考えた。
今日予定していた場所まで登りきるのが今の身体では不可能ということは思考力の落ちた頭でもすぐに理解できた。次に下山の可能性を考えた。そしてそれが不可能なことも少し考えてから理解できた。もうそんな体力も気力も残っていない。
まわりは急斜面でテントは張れない。
凍えが止まらない。
雪洞を掘るか?
そんな体力は残っていない。
考える。
崩れ落ちそうになる。
そうだ、少し降ったところにテントを張れるスペースがあったはずだ。
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テントの中でシュラフにくるまりながら何度か意識が薄れた。
寝ているのか起きているのか分からない夜だった。
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今回の山行については、あまりにも初歩的なミスを書くのが嫌で山行記を書かないでおこうかとも思いましたが、後に自分の糧になるのではないかと思い書くことにしました。
今回、装備の不良により遭難寸前までいってしまいました。
正直言うと低山ということで舐めてかかっていた部分もあったと思います。冬山はどんな山でも万全の体制で挑まなければならないと改めて思った次第です。
今回の症状は低体温症の初期症状とは少し違う気もしますが、全身が濡れてしまったことによる冷えからきた症状であると思います。まだ体力が残っているうちにテントを張ることが出来たのが幸いし、今こうして山行記を書いています。しかし、あの時さらに上を目指していたらどうなっていたか分からなかったと思います。
冬の武奈ヶ岳は経験者と一緒なら初心者でも登れる雪山です。
しかし、そんな山でもこういったことが起こりうることを忘れずにいようと思います。
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