この半年間、僕の山行記はシリアスな文体ばかりが続いていた。
そんなシリアスな文体はこの山行記で終わりにしようと思う。
次に更新する時は、昔のバカな僕に戻っているはずだ。
そして僕にとって母ともいえる山・金剛山を登ることによってひとつの区切りにしようと思う。
いつものように夕方から山に登った。
この山には似つかわしくない90Lのザックとプラスチックブーツ、雪もないのにピッケルを持って山に入った。
雪のない低山に厳冬期の装備で入ったのは、一人で行こうと思っている正月山行のトレーニングのためだ。
この何年間かは大きな休みの時はザイルパートナーである彼女と山へ行くことが多かった。
だけど今年は一人で山に行く。
今年だけじゃない、来年も再来年も僕は一人で岩と雪に挑み続けるだろう。
彼女は最高のザイルパートナーだった。
ルベルソの使い方をなかなか覚えてくれなかったけど、天性の判断力で僕をいつも支えてくれた。
彼女のビレイならいつも安心してザイルを伸ばせた。
北アルプス、南アルプス、八ヶ岳、大峰、六甲、そして九州の山まで僕らは登りまくった。
彼女とならどこだって登れた。
金剛山の山頂に付く頃にはすっかりと夜がやってきていた。
暗闇の中、僕はヘッドランプも点けずに歩いた。
どんなに暗くても、怖くはなかった。
僕と彼女はザイルパートナーである前に男と女だった。
そして、男と女の間に結ばれたザイルは現実のザイルとは違い簡単なことで切れてしまう。
そう、僕らのザイルは今はもう繋がっていない。
一週間前に僕らの恋愛は終わった。
僕らのザイルは切れた。だけどどちらも墜落はしていない。
それぞれの登りたい山に向かってそれぞれ一人で登ることにしただけだ。
そのためにはお互いに繋がるザイルが邪魔だった。
さようなら、まほ。
まほと登った山はどれも最高の山だった。
この5年間で僕らは地球二周分の距離を旅した。日本中にまほとの思い出が散らばり、その思い出に触れるたび僕は涙を流すかもしれない。
でも、寂しいけれど決して悲しくはない。
そして、寂しさはこれから訪れる冒険が消してくれるだろう。
これからは、それぞれ別の山に登ろう。
僕は僕が一番輝いて見えるソロに戻る。
そしていつの日か山で偶然出会ったら、お互いが通ってきた道について語ろう。新しく見つけた世界と、掴みたい未来について語ろう。
じゃあ、その日までさようなら。
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