この物語は壮絶な下山の物語である。
その壮絶な下山を語る前に、厳冬期の近畿最高峰に登るまでの話も書いておこう。
いつものことですが、登り始めはお昼からでした(;´д`)
今回のルートは八経ヶ岳屈指の迷路コース・鉄山からのルートなので、日が暮れる前に弥山まで抜けなければ途中でビバークの可能性がありましたが、それはそれでOKと言うことでいつものように突撃開始です。
このルートは体力や登攀技術よりも、読図・コンパスワーク・ルートファインディング能力が問われるルートです。
マイナールートなのでトレースもなく、今回は思いっきり一人ぼっちを楽しむことができました。
ひとりぼっちでも途中にもののけがいたりして何かと賑やかです。
鉄山の登りがアイスバーンになっていて、しかもアイスバーンのバーンごとズルッとズレ落ちるような状態で少しいやらしかったのですが、そこ以外はとくに難しいところもなくズシズシと進んでいきます。
上の写真のような倒木地帯や、ズボズボとハマる雪の落とし穴などのワナにより確実に時間と体力がそがれていきますが、ヒーヒーいいながら登っていきます。
いつものことながら、山行記上はあっという間に弥山まで登りますが、視界の悪いときに登るとベテランの方でもリングワンデリングしちゃうようなルートなので行かれる方は気を付けて下さい。
そんなこんなで弥山へ到着です。
弥山への到着時間は夕方6時前くらいだったのですが、どうしても2月中に近畿最高峰の八経ヶ岳の頂を踏みたかったので、弥山は華麗にスルーし、そのまま八経ヶ岳へ向かいます。今日は2月28日で明日になると3月になるからです。
弥山には快適な冬季小屋もあるのですが、僕は雨でも雪でも小屋よりテントで寝るほうが好きなのでサクッとスルーです。
弥山から八経ヶ岳の稜線は途中雪が深い場所もあったのですが、わざわざワカンを履くのもメンドーなので、赤ちゃんのようにハイハイで前進です。若干上体を起こしてスネに体重を乗せるようにしてハイハイをするとスノーシューなみの浮力を得ることができラッセルが楽になります。
ただ、カッコ悪いです(;´д`)
そんなこんなで八経ヶ岳へ到着しましたが、すっかり夜になってしまいました。
だけど、どうしても2月の八経ヶ岳に登りたかったので目標は無事達成です。
さすがに厳冬期のこの時間に登ってくる人はもういないだろうということで山頂にテントを張って、近畿地方のテッペンを一夜だけ独り占めすることができました。
山頂で星の写真を撮りたかったけど、残念ながら一晩中雪が降り続け星を撮ることはできませんでした。
だけど目が覚めると昨夜より30センチほど雪が増えていて、まっさらな雪面にもう一度自分のトレースを描けることにワクワクしました。
ここまで前置きです(w
こっからが書きたかった山行記です。
文体も変わります。
あと、いつものように写真と文章もリンクしなくなります(;´д`)
ヤツが現れたのは八経ヶ岳から下山し弥山小屋の前まで降りてきたときだった。
俺はいつものように笑顔で挨拶をした。
俺 「こんにちは!どのルートから登ってきたんですか?」
ヤツ「弥山川だ」
ヤツはぶっきらぼうにそう答え、これ以上は俺に構うなという空気を発しながら東にあるトンネル西口の下山ルートのほうへ向かっていった。
そんなヤツの威圧感に、この時期に弥山川をソロで登ってくる人間はやはり近寄りがたい何かを持っているのだなと感心した。
俺も来年あたり厳冬期の弥山川ルートに挑戦したいなと思った。
素直にヤツが格好良く見えた。
さてと、そろそろ下山するかと思ったらヤツが俺のほうに小走りで戻ってくるじゃないか。
何があったのだろうと近付いてみると
ヤツ 「・・・。」
俺 「?」
ヤツ 「あの。。。階段が雪で埋もれて下山ルートがわかりません」
俺 ( ̄□ ̄;)!!
ヤツ 「あの下山ルートわかりますか?」
俺 (;´д`)
ヤツ 「トレースがないので。。。降りられません」
俺 (;´д`)
まさか、厳冬期の弥山川ルートを登ってきた人から「階段が埋もれていて下山ルートがわからない」と言う言葉を聞くとは思ってませんでした。
弥山川ルートといえば関西屈指の上級者コースです。
夏であっても難しいのに、厳冬期にソロで登るなんていうと超が6個か7個くらい付くほどの上級者のはずです。
だけど、話をよく聞くと弥山川コースにはトレースがあってそれをたどってたら登れてしまったということでした。きっと今年は雪が少ないだろうということで突っ込んだのだろうけれど、昨夜から今朝まで降り続けた大雪にすべてが埋まり途方にくれたのでしょう。
しかも、ヤツの装備に目を向けるとピッケルすら持っていない。
厳冬期の雪山で「トレースがないと歩けない」となると致命的です。
間違いなく片道切符の特攻野郎です(;´д`)
そんなこんなで、僕が先導して下山することに(;´д`)
僕自身、トンネル西口ルートは夏にも使ったことがないけど、地形図を見る限り技術的な困難さはなさそうです。
行者還岳への明確な尾根に出るまでは尾根が広くてルート取りが難しそうだけど、等高線が緩めなので適当に降ってから最後に軌道修正をかければ問題ななさそうです。
そんこんなで、ブリブリと弥山から聖宝ノ宿跡へ向けてトレースを引いていきます。
振り返るとおじさんもしっかり付いてきています。
そして、しばらく降りていると後ろからおじさんの声が
「あ、あの大岩みたことある、たぶんルートはもっと右だよ」
雪山だし歩いたところがルートになるのだからと僕は直線的に降りていっていたのですが、おじさんは夏道からそれているのが不安なようです。
おじさんの不安を和らげるようにルートをほんの少し右に向けたように見せかけといて、やっぱり直滑降です(w
しかし、その後もたびたびおじさんが背後から声をかけてきます。
「あ、そこはもう少し左じゃないかな」
「違う違う、そこは右だと思うな」
・・・。
僕の脳裏にこんな考えが浮かびました。
もしかして。。。
もしかして。。。
おじさん完全にルート知ってるよね?
まさか、確信犯的ラッセル泥棒かよ!
(確信犯の使い方が間違ってるとかどうでもいいぞ!)
聖宝ノ宿跡まで降りればそこからは尾根が明確になり、1600.1mのピークで間違った尾根に降りなければ他には迷うところはなさそうです。
そこで僕はひとつの実験をしてみることにしました。
カメラを取り出し「ちょっと、この辺で写真を撮ります」と言っておじさんを先に行かせてみようと思いました。
僕はカメラのファインダーを覗きながら心の中でこう叫びました。
「さあ!こっからはオマエがラッセルしろ!」
すると・・・。
おじさん待ってます。
おじさんずっと待ってます。
おじさん、僕の真後ろで僕が写真を撮り終わるまで退屈そうに待ってます。(;´д`)
とことん盗む気なのね。
最後まで盗む気なのね。
ええ、わかりました。
僕はあなたの露払いです。
ラッセルします。
トレースひきます。
雪の落とし穴はまず僕が落ちます。
息を荒げ、全身から汗を噴出しながら雪をかき分ける僕におじさんが後ろから声を掛けてくれました。
「君、体力あるね〜。後ろは楽でいいよ。ありがとう」
「殺す!」
(注:最近はやりの犯行予告ではありません>おまわりさん)
結局、弥山山頂から下山まですべて僕が先頭でした(;´д`)
まいどのように多少の誇張もありますがこんな感じの下山でした。
なんだかんだいいながらもトンネル西口から大川口の1時間の国道歩きはおじさんとワイワイとしゃべりながら降りてきました。
僕は山にいる時は一人が好きで、何日も誰ともしゃべらなくても平気だし、むしろ誰ともしゃべりたくない時もよくあるんだけど、おじさんと話しながら降りたこの下山行はとても楽しく心がホカホカとしました。
またいつか山で会いたいなと思える人でした。
でも、次は先頭かわれ!
(;´д`)
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